いつもありがとうございます。【必要の場をツクル設計事務所】-長尾アトリエ の 長尾 です。
遺産保存の真意
デザイン運動が盛んだった1900年代。この時期に建てられたイタリア"イブレア"の近代建築群。
建物の"オリジナルイメージを保つ"ことを軸に1900年代末頃から"保護活動"が始まります。
その中に、オリベッティ社の主力工場だった、"ICOチェントラーレ"の"修復工事"があります。
この建物、すでに、通信会社が、所有を引継いでいたのですが、ガイドラインを基準とした"修復工事"の過程で、関係者たちは、外壁の仕上材である"ガラス"を建設当時の"オリジナルのガラス"にすることは、"無意味"であると判断しました。
では、関係者たちが"重視"したこととは。。。何かと言いますと。
"オリベッティ社"と"街"との関係に伴う、地域のヒトたちの"記憶"を"持続して維持"すること、でした。つまり、建物の"カタチ"を保存するのではなく、
- その"場所"に建てられた"理由"と
- 地域のヒトたちが"過ごしてきた時間の記憶"を
保存するということです。もう少しかみ砕くと、"過去の出来事"の保存なのではなく、"未来"につなぐ"記憶"の保存ということです。
その後もガイドラインの影響はとても大きく、市の条例も変更されることとなり、同時期に市に、"オブザーバトリー"と呼ばれる、"監督機関"が設置されることとなりました。これは、改修に関する"無料相談"を行なう機関で、不適切な工事を抑止するための"公的な役割"ということです。
また、関係者たちにとって、貴重な経験もあります。
それは、ある地区での修復時、建設当時の"白い外壁面"を取り戻した"集合住宅"に住んでいたご老人に、
「白い集合住宅は、私が新婚時代を過ごした初めての家であり、すばらしい時代を思い起こさせてくれました。」
と、涙を流しながら感謝の気持ちを伝えられたそうです。
この出来事は、地域に住むの"ヒト"たちが過ごしてきた時間が、"オリベッティ社"とともにあり、いまでもお互いに"必要な存在"であるコトを再認識する体験となったそうです。
ここに創業者である、"アドリアーノ・オリベッティ"が、現代に残したコミュニティに関する"遺産の本質"が垣間見られます。
そして、"建築を媒体"とし、この"記憶"を"次世代"につなげてゆくコトが、近代建築保存の"真意"であると考えられます。
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