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アジール・フロッタン
ル・コルビュジェが手がけ、1929年にリノベーションが完了した難民避難船"アジール・フロッタン"が、パリのセース川沿いに係留されています。
今から10年以上前。
オーステルリッツ駅からそう遠くない場所に、ボロボロの状態で存在していました。
同じように、1900年台前半に、ル・コルビュジェにより提唱された"近代建築五原則"。
"ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面"を体現している"サヴォア邸"は、今でこそピカピカの建築ですが、文化財としての価値が認められる前、しばらくは廃墟同然でした。
アジール・フロッタンもパリの街中でひっそりと忘れられていたのです。
実はこの2つ、サヴォア邸は1931年、アジール・フロッタンは1929年に竣工と同時期に設計されているのです。
このため、水平連続窓や屋上庭園などの近代建築五原則は、アジール・フロッタンにも確認できるのです。
また、アジール・フロッタンは、ル・コルビュジェとしてはめずらしい"リノベーション"で、もともとは1919年頃に、コンクリート造で建設された平底の"石炭補給船"でした。
特殊なコンクリートの船になったのは、第一次世界大戦のため鉄が不足していたからです。
しばらくすると、この船は使われなくなり、フランスの画家"ルイーズ・カトリース"の名前を冠する条件をつけて、救世軍に寄付し、難民を受け入れる船に改造することになったのです。
このように、アジール・フロッタンに関わる人間模様は華やかでした。
ル・コルビュジェは、1923年の著書"建築をめざして"の中で、機能主義のモデルとしての建築は"客船"のようでなければならないと、モダニズムの例えを"船"で表現していました。
他にも建築家が、船の内装を手がけたり、川岸で音楽を演奏するための船をデザインしたりと、最近でも最小型客船"ガンツウ"の設計を行うといった事例があります。
一方、アジール・フロッタンの特徴は、富裕者向けではなく、避難民のための船ということです。
2016年のヴェネッィアビエンナーレ国際建築展では、直前にシリア難民が大量に発生したことから、難民問題に取り組むプロジェクトに注目が集まりました。
つまり、アジール・フロッタンの再生は、現在の社会問題に対する回答のひとつでもあるのです。
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