東南アジア南部に位置し、1万以上の島からなるインドネシア。
その中のスマトラ島北部に居住している"バタク"という民族は、赤道直下の高温多湿の熱帯性気候でもあるため、独特の形状をした"鞍型屋根"の家に居住しています。
内部は、高床の広々としたワンルームで、間仕切りはありません。
床下からのはしごを上った先に入口(玄関)があり、入口から連続する通路部分は"テラガ"と呼ばれ、家族の共有スペースです。
近年では、台所を家の後方に増築することも多くなっていますが、テラガには、かつて火を燃やす炉が置かれ、その上に薪(まき)や食器を置くラックが設置されていました。
このことからも、この場所が、ダイニングキッチンやリビングの役割をしていることが分かります。
さらにこの共有スペースの左右は、家族の数によって4~6つに分かれています。・・ビジネスホテルの中廊下の両側に(壁の無い)部屋がある感じです。・・
右手奥は"家長"のスペース。
入口すぐの左手は、"長男家族"が使用する場スペース。
という具合に、間仕切りのない部屋でもそれぞれ使うスペースが決められています。
建物の真ん中はワンルームの部屋ですが、その前方と後方に、中2階のデッキのような床が設けられていて、前面の床は屋外まで伸び、いろいろな種類の楽器が置かれます。
集落では家を横に並べる配置としているため、建物正面のスペースは様々な祭事が行われ、これらの楽器が活躍することになります。
また、1つの集落はそれほど大きくはなく、共通の祖先を持つ一族が集まって暮らしていて、家の数は4~6棟ほどですが、その中に"フタ"と呼ばれる代表的な集落があります。
この集落の周りは、もともと地面を掘ってつくられた水路と高い土壁、そして竹林で囲われたつくりとなっていたのですが、近年では竹や樹木を周囲に植えるのみで集落の境界にしているところも増えているようです。
そして、並んで配置された鞍形屋根の家と向かい合うように"ソポ"と呼ばれる穀物倉が配置されているのですが、これは、家の後方で栽培された野菜などを保存しておく場所になります。
門の近くには集会や作業のスペースがあり、中央には、祭儀のときに使われる広いスペースが設けられ、家の内部と外部が連続するとても機能的で持続可能な空間構成になっていることが分かります。
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