いつもありがとうございます。必要の場をツクル設計事務所-長尾アトリエ の 長尾 です。
子どもの目線からのランドスケープ
2013年、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイで行われた庭園プロジェクトでは、「子どもたちが楽しめる空間」がテーマとして掲げられていました。
多民族国家であるシンガポールは、経済的な豊かさを持つ一方で、社会的な格差も抱えています。
そうした背景の中で、この庭園は「分かち合うこと」や「平等」といった価値を、やさしく伝えることを目指して「クリスマス・シュガー・マウンテン」としてデザインされました。
果物や野菜など、実際に食べられる植物が使われ、まるで絵本の世界のような風景が広がり、収穫する楽しさや、食べ物を分け合う喜びを、子どもたちにも直感的に感じてもらえるような工夫がされています。
さらに、この庭にはストーリーも用意されています。
パイナップルの男の子「アナナス」とイチゴの女の子「ベリー」。
育つ環境が違う2人は離れて暮らしていますが、ある日、一緒に過ごせる特別な場所に出会います。
そこで2人は家をつくり、幸せに暮らしていく、そんな物語が、空間全体に重ねられています。
ランドスケープに物語を取り入れることで、ただ「見る」だけでなく「感じる」体験へと広がっていく、そんな可能性を感じさせてくれる事例です。
改めて考える日本の風景
ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京と、世界の都市はどこも高層ビルが立ち並び、どこか似た景色になりつつあります。
AI時代の今、見直したいのが「その土地ならではの風景」です。
日本には、山や川、滝といった豊かな自然と、それに寄り添う暮らしがあります。
こうした風景は、開発や災害によって少しずつ失われているのも事実ですが、この里山のような風景こそが、日本の魅力の根っこにあるもので、大切に守っていきたい財産だと考えられます。
バーチャルな空間とは異なり、目の前にある景色は、刻一刻と変化し同じ形では二度と見られないものかもしれません。
そう考えると、日常の風景も少し違って見えてきます。
都市の中の日本らしさ
2015年、渋谷駅ハチ公前広場に設けられた庭も、印象的なプロジェクトのひとつです。
この場所は、1日に約50万人が行き交うと言われる、世界でも有数の人の多い場所で、さらに繁華街の中心ということもあり、衛生面から土の使用が限られていました。
そんな条件の中で採用されたのが、「できるだけ少ない要素で日本を表現する」という考え方です。
松、灯籠、そして風を表す砂紋、この3つだけで構成された空間は、とてもシンプルでありながら、しっかりと日本らしさを感じさせてくれます。
余計なものを削ぎ落とすことで、かえって本質が際立つ。そんな日本的な美意識が、都市のど真ん中に表現されています。
富士山を引き立てる庭
2018年には、日本平で、「富士山を最も美しく見せる庭」がつくられ、重視されたのが「つくりすぎない」という発想です。
庭の主役はあくまで富士山。
そのため、周囲のデザインは控えめに、しかし丁寧に整えられています。松や石を中心に据え、植物は最小限に抑えられています。
また、天候によって富士山が見えない日にも楽しめるよう、「隠れ富士」という工夫も取り入れられています。
背景の景色を取り込む「借景」という日本庭園の考え方と、坪庭のように要素を絞る美学が合わさることで、静かで奥行きのある空間が生まれています。
華やかさではなく、引き算の美しさ。
そんな日本らしい感性が、この庭には丁寧に息づいています。
