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塔状住宅の素材と構造
世界最古の摩天楼都市イエメンの首都サナア。
イエメンには森林が少なく、木材を手に入れるのがむずかしいため、住宅の素材には山から切り出した石や日干しレンガを使っています。
搭状住宅の上層階と低層階では、様々な理由により異なる素材が用いられます。
低層部には、重い大きな石が積まれ、窓はほとんどなく、明かり取りや換気のために、小さく最小限の数だけ設けられています。
窓がほとんどないことで、砂埃を避けることができ、かつての部族間の争いでの外敵侵入を防ぐこともできたのでした。
また、大きな窓をつけると壁の面積が減り、上の階の重さを支えることが出来なくなるという、構造上の合理的な理由もあります。
これに対し上階層は、重量の軽い日干しレンガを積み上げて作られています。
日干しレンガは水に弱いため、上下階のつなぎ目や窓枠などには、防水効果のある漆喰(しっくい)を塗り、雨や生活用水から壁を守っています。
部屋の内壁の隙間にも塗られるため、防寒・防暑にも優れ、乾燥した気候で昼夜の温度差が激しいサナアの気候に適しています。
トイレからのエコシステム
塔状住宅には各階にトイレが設けられています。
一般的には、道路に面した建物の隅にあり、どの階も同じ位置に配置され、上から下まで縦穴が通っています。
尿は、各階の床から壁にあいた穴を通って、直接外に排出されるのですが、サナアは乾燥しているので、そのままにしていても問題ないようです。
糞便は、たて穴を通って1階の肥だめに落ちます。
肥だめには小さな穴があいていて、そこから定期的にかき出し人がやってきて、糞便を回収していきます。
回収された糞便は"ハンマーム"と呼ばれる"公衆浴場"の燃料として使用され、その燃えかすはサナア旧市街にいくつもある菜園の肥料になります。
人びとは菜園で育った野菜を食べ、ふたたび排泄することになります。
このように、閉ざされたサナアの市壁の内側で、完全に循環するエコシステムが成立しています。
人類が住み続けている最も古い都市
住宅から出るごみ処理問題を街全体の仕組みに取り入れ、"人類が住み続けている最も古くからの都市"といわれるサナア旧市街。
数百年前の先祖から受け継いだ伝統的な石積みの上に、日干しレンガにより新たな居住空間を建て増した高層住宅が、近年発展した他の都市とは違うユニークな街並みを形成しているのです。
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