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木造密集地域
谷中は、震災・戦争での被害が少なかったこともあり江戸時代からの町割り・道筋が今に引き継がる木造建築物の多い街です。
このため2014年には、火災の危険が高い木造密集地域の中でも重点的に不燃化をすすめるべき「不燃化特区」に指定されます。
一方、2020年に東京都の防災都市づくりの基本方針で、地域特性を生かした魅力的な街並みの再生が掲げられます。
これにより谷中は、下町風情の良さを残す木造の街並みを持続しながら防災性の向上を図るといった相反する課題をもつことになります。
具体的な対策としては、
- 貯水槽などの消防設備の設置
- 木造の耐震補強・防火仕様・害虫対策
- 防災コミュニティ設置や避難計画・訓練
- プロック塀の撤廃や電線類地中化・防災広場の設置
などがあり、風情を活かしながらの不燃対策法も増えているようです。
都市計画道路廃止と地区計画
この地域では、80年代頃から古民家再生や街中でのアート展、地域共生型マンションの建築協定づくりなど、住民が中心となり多くの活動をしてきました。
2017年には道路の拡幅、いわゆる都市計画道路の見直しが決定され、街の景観を維持するために、3つの都市計画道路が廃止されます。
また各自治体で決めることができる地区計画(条例)の策定に際し、初期の素案では、地域全体で道路からの壁面後退を条件に、建物のボリュームを大きくすることができました。
この基準により、建替を促進することができる一方で、軒下空間や植木棚・べンチなどのコミュニティを育む場所が失われるだけでなく、路地からの空の広さも失うことが懸念されたのでした。
これらの問題を認識した多くの地域住民は、条例の改訂に動き出します。
最終的に高さ規制では、防災区画道路のみであるとか有形文化財には例外規定を適用するといった限定的な制限となり、さらに建物の配置については、建築協定を優先するなど、路地や街並み保全を否定しない地区計画と修正されました。
しかし当初の都市計画道路が廃止されたことに伴い、計画地の制限がはずれると、法の隙間を縫うように、敷地をまとめて大きく購入する開発者も現れ、5層以上のマンションも建設され始めます。
近年では、風情ある木造住宅と路地空間が失われる速度が速まり、保全支援の対策が求められているのですが、加えて都心部の地価上昇に伴う税の負担も大きくなり、相続を機に土地を手放す世帯が増えているという実態もあります。
これは、下町のみならず、日本全体の問題でもあり、昔ながらの通りや歴史ある木造建築と近代建築が調和する街並みの維持や税の支援への対策を多くの関係者たちが、目指さなければならない時期なのかもしれません。
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